「元主婦」の姉妹が担う「能勢の台所」N’s Kitchen
- Text : Yudai Ito / Photograph : Yukinobu Okabe
野間出野の古民家を再生して飲食店を営んでいる漆谷さん。Dear N's Kitchenの開業当時、地域にこのようなレストランはありませんでした。なぜこの場所で?不安はなかったのでしょうか?当時のことをお聞きしてみると意外な答えが返ってきました。
原田ファームや須美ファームの野菜や、奥ぶどう園のブドウなど、能勢の旬の農産物をふんだんに採り入れたコース料理は人気が高くリピーターも多い。
東郷の田園風景に惚れて
「この木、Yの字に見えません? 二股に分かれた木は、姉妹でお店をするのに縁起がいいんですって」。シンボルツリーである年季の入ったカイヅカイブキを指して笑うオーナーの漆谷克子さん。メインシェフは姉の高山由美子さん。そう、N’s Kitchenは漆谷さん・高山さん姉妹のお店なのです。N’s Kitchenの「N」は「能勢(NOSE)」の「N」、つまり「能勢の台所」という意味。
姉妹でお店をするのに縁起がいいという二股に分かれた木。年季の入ったカイヅカイブキはお店のシンボルツリー(写真右)
N’s Kitchenをオープンしたのが平成23年9月。それまで姉妹は、吹田市の千里山で、近隣の主婦たちと一緒にカフェを2年間ほどやっていたそうです。そんな姉妹が、なぜ能勢にお店を開くことになったのでしょうか?「能勢にはお野菜を買いによく来ていたんです。ドライブがてら。妙見山の景色が好きで、土地の人がきれいに手入れされている里山を見るのも楽しくて。いつかこういう自然いっぱいの場所に『食べるところ』をつくれたらいいよね、と、姉と話してたんです」。
お店を開業するきっかけとなった占い師のお告げに出てきたという岩崎神社。野間出野伝統の獅子舞もここに奉納される。
花束のプレゼントで家主さんと意気投合
今でこそ東郷地区にはたくさんの新しい飲食店がありますが、当時はまだこのようなレストランはありませんでした。「最初は能勢のことを全然知らなくて、すごい雪降るんちゃうん、大丈夫?とかね(笑)。心配は色々ありましたよ」。そのうえ、肝心の物件がなかなか見つかりませんでした。「色々探していた時に、売り物件の看板を見つけたんですよ。それが、ここ。傷んではいましたが、すごく立派な建物だったんです」。
築100年ともいわれるこの建物は、大正時代には貴人を招くなど、来賓用の別荘として使われていた由緒正しい屋敷。「こんな話をすると笑われちゃうんですけど、物件を探している時に知り合いの占い師さんに相談したんです。すると、『能勢に岩崎神社があるはず。お参りに行きなさい。』と言われました(笑)。もちろんお参りには行ったんですが、この土地がその神社の裏側だったことに後から知って、驚きました。しかもその占い師さん、『二股の木はない?』とか、ズバリ当てちゃうんですよね(笑)」。
運命的な出会いを感じた漆谷さん、近所の方に家主さんを紹介してもらうまでは順調だったものの、そこからの交渉がなかなかうまくいかず、何度も家主さんの元に足しげく通いました。「当時70代の女性だったんですけど、ある日、お花を持って行ったんです。そしたらとても喜んでくれたんです」。なんと、花束をきっかけに家主さんと意気投合したという漆谷さん。無事に物件を購入でき、さっそくリノベーションを開始しました。
「テーマはハッキリしていて、ひとことで言うと『大正時代、外国に憧れた人がつくったような建物』です」。
レストランに生まれ変わるためにリノベーション工事中の古民家。大正時代に建てられた来賓用別荘だった。
オーナーの美意識が反映された、こだわりの調度品が飾られる店内。元の古民家の柱や木をできるだけ生かしたという店内は、和風建築とモダンなインテリアが調和した落ち着いた雰囲気。
レストランの味を家庭にお持ち帰りしてほしい
漆谷さんは、メインシェフである姉の高山さんがつくる料理が「好き」だと言います。「特にクリーム系の料理が好き。どれも優しい味で」。高山さんの料理のこだわりは「スパイスをあまり使わずに、シンプルな味付け」。30〜70代の女性のお客さんが多いN’s Kitchen。お客さんたちが家庭に帰っても「ちょっとマネしてみようかな」と思ってもらえる、そんな料理をつくりたいと言います。「だから、どうやってつくるの?と聞かれたら、レシピもお教えします」と高山さんがニコリと笑う。
漆谷さんの妹でメインシェフの高山由美子さん。お客さんと交流しやすいようにオープンキッチンにした。
オリジナルドレッシングの「ノセドレ」も、家庭にお持ち帰りできるレストランの味。能勢産野菜の旨みを凝縮したこだわりのドレッシングで、普段のサラダをレストランの味にしてくれます。当初は月200本ほどを販売していましたが、百貨店などからも1000本単位で注文が舞い込むほどの人気となり、最盛期には月3000本を製造するようになったそうです。
「まだまだ模索中のN’s Kitchenですが、ぜひ地元の人にも来てほしいです」と笑う漆谷さん。「能勢の台所」を担う姉妹の新たな挑戦はまだまだ続くようです。
月200本を作るのがやっとだったオリジナルのドレッシング。最盛期は3000本の発注がある程の人気になったのだとか。
ベルギー産クーベルチュールを使用した大人のショコラ「ショコラdeショコラ」に添えられているマスカットは地元・奥ぶどう園の「ゴールドフィンガー」。
お店の駐車場から見える野間出野の景色。
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