妙見山頂で巡礼者と接触した朝

中津から石塊を担ぎ一夜をかけて妙見山へ巡礼するアート作品

2年1回開催されるアートイベント「のせでんアートライン」。期間中に国内外8組のアーティストによる展示が川西・能勢・豊能・猪名川の各所で繰り広げられています。とりわけ異色なのが11月9日の日没から翌日10日の夜明けにかけて行われたコンタクト・ゴンゾによるパフォーマンスイベント「from dusk till dawn」でした。

のせでんアートラインのイベント紹介文によると

能勢妙見山頂での一夜、日常と隔絶された私たちは、訪れる出来事の足音を聞く。 2017年の「のせでんアートライン」参加時には、能勢妙見山を滑り降りる「山サーフィン」を実践した彼ら。今回は拠点である大阪市中津の事務所から、石塊を担ぎ一夜をかけて妙見山へと歩みを進める。 観客たちは山頂付近にて彼らの位置情報や、徐々に迫りくる気配とその過程での会話を、世界各地から配信されるDJの選曲をバックにリアルタイムで体験し、ゴンゾを待ちながら日常から隔絶した特別な一夜を過ごす。その気配と断片的な情報はインターネットを通じて配信され、山麓の人々はこれを頼りに、やがて通りすぎる彼らを追いかけることも、待ち構えることもできるだろう。 巡礼とも遊びともつかぬ出来事が到来する朝を、私たちはどのように迎えているだろうか。

大阪市内から妙見山を目がけてアーティストが石を担いで登ってくる。彼らを山頂で待ちながら夜を明かす。その状況を想像して「これは面白そう」…と、すぐに申し込みました。のせでんアートラインとの関わりは、2年前に能勢東郷地区で行われたアーティストの作品展示やワークショップに参加したとき以来。アートに触れてモノの見方の幅が少し広がったような感覚があり、機会があれば何らかの体験を再びしてみたいと思っていたのでした。

のせでんアートラインのイベント「from dusk till dawn」のチラシ (C)contact Gonzo 2019

コンタクト・ゴンゾとは何者?

コンタクト・ゴンゾは2006年に塚原悠也氏により結成された、複数人のメンバーからなるアーティストユニット。人と人とのあいだに起こる接触、肉体の衝突に着目し、格闘技やスポーツを想起させる即興パフォーマンスやインスタレーションを行なっている。 のせでんアートラインに参加するのは2回目で、前回は妙見山の斜面を滑り降りる「山サーフィン」を開発。

Youtubeの動画を見ると、無言で平手打ち合ったり、体をぶつけ合っているのが印象的でした。格闘技やスポーツの攻防というよりは、場末の地下室で素人が殴り合っているような不穏な雰囲気。作品の意図はよくわかりませんが、肉体と肉体が接触したときの「音」にこだわりがあるのはなんとなく伝わりました。シーンとした空間の中で打撃音だけが響き、最初は「痛そう…」と感じますが、しだいにダンスを見ているような不思議な高揚感に包まれます。

参加者は萬屋旅館で来訪を待つ

申し込みから一週間経ち、開催当日。参加者は、かつて旅館だった萬屋という建物の二階に設けられた特設会場(二間の和室)でコンタクトゴンゾの到着を待つことになっています。会場に入ると襖に地図が投影され、現在位置がプロットされていました。スピーカーからは大音量で彼らの肉声(会話)がリアルタイムで流れていて、その声に音楽が被さってくるという演出です。世界各地から配信されるDJの選曲ということで、そちらも本イベントの楽しみの一つでした。

プロジェクターで襖に投影された現在地MAPと断片的な写真。視覚的な情報は基本これのみ。映像の配信がないことで想像力が喚起される。

開始一時間で、外に避難。

まず、この独創的なイベントを企画されたコンタクトゴンゾ氏と、運営していたアートラインのスタッフの方々に心から敬意を表します。その上で、率直な感想を記させていただくと、スタート直後のグダグダは堪え難いものがありました。動画で見られたような張り詰めた緊張感は会場内になく、スピーカーから流れてくるのは弛緩した日常会話で、内容の大半は仲間内の話や仕事の打ち合わせのようなもの。それが大音量で延々と続くので辛いものがありました。DJの選曲も、ファミコンのグーニーズの曲がピコピコ流れたりするもので、期待していた分、肩透かしを食ったような感じでした。

「この空間に8時間もいるのは、…無理。」堪らずに、会場の外に出ました。のせでんアートライン2019のテーマは「避難訓練」ですが、そのアート作品からも「避難」することになるとは、全く想定外でした。しかし図らずも、誰もいない夜の妙見山を歩くという非日常の経験ができたのでした。

妙見山から見下ろす夜景。周囲が極端に暗いので遠くの景色がより美しく輝いて見える。
誰もいない夜道を歩く。この日は月がかなり明るく歩きやすかった。(夜の境内一人歩きは危険です)
画面中央右に赤い発光体が写っていた。これはなんだろう?
かつておでん屋だった富士屋の建物。夜は昼と違った印象で神秘的だ。
月の光に照らされる、みたらしだんごの看板。

非常食を食べに、戻る。

月明かりの妙見山が美しくて夢中になって歩いていたところ、運営の方からメールが。「非常食の時間となりました。もしよろしければ、お召しあがりにお戻りください。22時に消灯、23時に門限となります。周囲も暗くなっておりますので、十分にご注意くださいませ」 丁重な文面で夜間外出を控えるようにと書かれてある。気ままな行動でスタッフの方に迷惑をかけているな…と気づき、そそくさと会場に戻りました。

萬屋に戻るとお湯をかけて15分するとお粥になる非常食が一階の土間に用意されていました。特別美味しいわけではありませんが、非常食としてなら十分な味。何より体があったまるのが有難いです。非常食を食べ終わると、22時の消灯時間になったので和室に移動しました。

非常食が提供されている様子。のせでんアートラインのFacebookより

一の鳥居を越えて静かな興奮の展開に

和室に入ると他の参加者がシートやダンボールを重ね合わせて寝床を作っていました。すでにガッツリ寝ている人も多く、グォーというイビキが会場内に響き渡っていました。それにつられて、いつのまにか寝てしまいました。 数時間は寝たと思うのですが、起きたときに「一の鳥居…」という聞き慣れた単語がスピーカーから聞こえてきて、ハッと覚醒しました。「近い…」。一の鳥居というのは妙見山詣の参道の入り口にあたり、一番最初の鳥居があったところです。そこから続く道は川西〜豊能〜能勢〜亀岡とつながっていく古くからの街道で、このエリアの大動脈ともいえる道です。

「能勢カントリー」「川西大霊園」…会話の中で発せられる単語から、彼らが見ているであろう風景がありありと浮かんできました。普段わりと頻繁に通っている道ということもあり、カーブが連続する感じや坂道の勾配角が鮮やかに脳内再生されます。「あの辺りだな」「もうすぐアレが出てくるはず」暗闇でシートにくるまりながらも、頭の中で一緒に歩いているような、不思議な感覚でした。ユーベルホール、吉川交番を越えてその先のセブンイレブンまで続く登り坂。そしてその先の急な下り坂。重心がかかる足首や膝が痛い、というつぶやき。あの坂を30キロの石塊を背負って歩くのは相当キツイだろうということが容易にイメージできたのです。

妙見山に近づいてきて実況中継が俄然面白くなってきた

ついに巡礼者と「コンタクト」

スタートして8時間余り経過。一行が妙見山の中に入って山道を登っている頃には、荒くなってきた呼吸音。修飾がそぎ落とされた「重い…」というシンプルな一言に心を奪われました。状況にシンクロしたような音楽とあいまって、心地よい瞑想に近い状態、穏やかな精神状態に。山を登っているアーティストもさすがに余裕がなくなってきて口数も減ってきたことがよかったのかもしれません。途中電波で音声が途切れたものの、この時間帯の体験は価値のあるものでした。

「まもなくゴンゾが到着します!」と司会の方に促され、外に出ました。まだ夜が明けきらぬ4時過ぎだったと思いますが、寒さと疲労で他の参加者もボーッとしていました。ゴンゾの3人が階段を降りてきたときは、24時間テレビのグランドフィナーレを連想しました。いやー長かった。完走おつかれさま!自然にわき起こる拍手。寒い中待っていた参加者に何か一言あるのかと思ったら、そのままパフォーマンスへ突入。「えっ…ここでやるのか。」

境内でゴンゾを迎えるために待っている参加者。朝4時頃。

そして土間でパフォーマンス

実際に見た初ゴンゾの印象は、「動画のようなキレがない」。30kgの石塊を40km担いで山を登ってきて、ほとんど休憩なしで、いきなりのパフォーマンス開始ですから無理もありません。動画で重く響いていた打撃音も、実際にはペチ、ペチという軽い音で、動きも明らかに鈍く感じました。ここで笑ってはいけない…と抑えていたのですが、リーダーの塚原氏は明らかに笑いをとりにいってました。殴られながらも「横笛」を必死に吹こうとするが、息があがっていて音が鳴らないという寸劇。「ヒュルヒュルー」という空気の抜ける音が土間に響き、これには観客も苦笑。あれ?もっとシリアスな感じではなかったか。

萬屋旅館の土間でそのままパフォーマンスへ移行。疲労からか、動きにキレが見られず。
中津から背負ってきた石をリュックから取り出そうとしている塚原氏。後ろで横笛を吹いて盛り上げる若手メンバー。
石を乗せた上にさらにストンピングで攻撃。石に蛍光イエローが塗られていたが何かの意味がこめられているのだろうか。

巡礼者と参加者は三角点へ

パフォーマンスは10分程続き、石を3人でリレーして外に出した時点で終わりました。石塊は妙見山の三角点まで運んで、アートライン会期中そこに展示することになっていました。三角点まで運ぶ際に、石塊を実際に持たせてもらったのですが、うわ本当に重い!…ハリボテではなかった。これを中津から担いで妙見山を登ってきたのか…。アーティストが放つエネルギーは、すさまじいな…。などと感慨にふけっているうちに三角点に到着。2年前のアートラインで制作された作品(小屋)の前の踏み石の上に、石を下ろしました。三角点△で丸い石○と四角い石□が接触(コンタクト)しましたが、これにも何か意味があるのかなと一瞬考えてしまいましたが、深読みするのは野暮なのでやめました。

妙見山の三角点に向かうアーティストと参加者。夜が明けてきた。
三角点で石と石がコンタクト。夜を徹して行われた巡礼の儀式がここで終わった感じがした。

ご来光を浴びに稲荷山に

イベントが終わり帰ろうとしていたら、アートラインのプロデューサーの方が参加者に「日の出を見に行きましょう。絶好のビューポイントがあるんですよ」と声をかけていました。せっかくなので私もついて行くことにしました。駐車場に隣接する稲荷山という所で、渡部睦子さんという別のアーティストの作品も展示されているとのことでした。特に期待もせずに稲荷山に登ったのですが、このご来光、ヤバかったです。「みなさんきっと良いことがありますよ」偉い方にそのように言っていただいて本当に良いことがあるような気がしました。渡部睦子さんの作品は、子供向けの遊具のようなあたたかい感じのものでしたが朝日に照らされて素敵に輝いていました。

こんな感動的な日の出はちょっと記憶にない。太陽に祝福されているようなありがたい気分になった。
渡部さんの作品。地元の人から聞き取りをして細かく描き込まれているフラッグが風になびいていた。
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