• 野間中nomanaka
  • MIGIWA・住谷弘法さんと歩く「野間の森」

  • Text : Yudai Ito / Photograph : Yukinobu Okabe

造園会社である(株)杉景(さんけい)が2015年に野間中にオープンさせた「野間の森 MIGIWA」は、レストランと庭が一体となった「ガーデンラウンジ」。今回は、杉景の会長・住谷弘法さんにMIGIWAのこだわりについてお話を伺いました。

何十年とそこにあったかのような風格ある佇まいの森。どうやってつくられたのだろう。

「自然の庭」を希求した50年

「入り口にある大きなヒマラヤシーダや、樹齢70〜80年のサクラ。それから、そこにあるヒノキはおそらく防風林として植えられていたんでしょうね。あっちの窓からはクリの木が見えますでしょう? 最初からあった木はそれくらいで、ほかの木は私たちが新しく植えたものです」。

MIGIWAを運営する(株)杉景の会長・住谷弘法(すみたに・ひろのり)さんにそう聞いて驚きました。お店とともにある「野間の森」は、何十年とそこにあったかのような風格ある佇まい。てっきり、もともとあった木を活かしてつくられたものとばかり思っていました。 じつは、この「自然さ」こそが、住谷さんの庭づくりの真骨頂なのです。

この庭とシェフのつくる料理を楽しみに、遠方からはるばる来られるお客様も多いという。

経歴も異色ながら、作庭もまた斬新

今年(2019年)で造園歴51年目を迎える住谷さん。造園を学びはじめたのは26歳の頃、それまでは公務員やハウスメーカーで事務の仕事をされていました。 造園業といえば、独立する前に他の会社で「修行」をするのがふつうですが、住谷さんの場合はなんと独学で開業。その経歴も異色ながら、作庭もまた斬新。当時主流だった日本庭園ではなく、自然の風景を取り込むことを企図した新しい庭を模索してきたのです。

「高度経済成長期の中で、日本の建物は確実に変化してきました。なのに、庭がいつまでも日本庭園というのは『愚の骨頂』とすら思ってましたね」。 それまでの価値観では「経済的価値が低い」とされてきた雑木や石材などの素材にも着目し、自身がいいと感じたものは使って、新たな庭を創造してきました。

自然の風景を取り込むことを企図した庭を模索してきた住谷さん。今でいう「雑木の庭づくり」の先駆者。
こうした庭づくりの手法が世に受け入れられ、全国各地の個人邸を任されてきた住谷さん。今でこそ知名度の高い「雑木の庭づくり」ですが、住谷さんはその先駆者でもあります。

そんな住谷さんのキャリアのなかでも「野間の森 MIGIWA」は特別。「個人で楽しむのではなく、開かれたパブリックな庭」という新たな試みでした。 様々な思い入れがこもったこの庭を、住谷さんに案内してもらいました。

住谷さんから庭の木々について説明を受ける筆者。(インタビュー/伊藤雄大)

カツラの木が演出する香りの小道

砂利と敷石のコンビネーションが美しいレストランに向かう小道。 そこに植わっているのは大きなカツラの木でした。見上げると、青い空を背景に、丸っこい葉がなんとも可愛らしい。 カツラといえば秋になると黄色く紅葉するさまが美しいことで有名ですが、魅力はそれだけではないそうです。

「秋には落葉したカツラの黄色い葉っぱが絨毯のように広がりますね。その頃になると、この道を通るお客さんが『甘い匂いがする』って言うんですよ。じつは、お客さんが踏みしめたカツラの葉っぱから漂う香りなんです」。

それは秋の限られた期間にしか味わえない、「メープル」に似た香りだそうです。

五感を使ってより深く感じることがMIGIWAの庭の楽しみ方だ。

長年寄り添ったかのような「かたえだの木」

エントランスの近くにはあるのはハウチワカエデ。 「このハウチワカエデは岩手県から取り寄せたものです。京都の庭でよく使われるイロハモミジよりも枝葉が少なめで、風通しのよい印象になります。そして、この木は、厳しい自然の中で育った『かたえだ』の木なんです」

「かたえだ」とは聞きなれない言葉ですが、公園などで見かける左右対称に整った木とは違って、幹の片側に枝が集中し、反対側には少ない状態のこと。 様々な木が生存競争をする自然の山の中で、日陰にある片側の枝が淘汰され、もう一方が光を求めるように枝を伸ばした結果、このような樹形になったそうです。

「こういう木を、枝が少ないほうを建物側(日陰側)にして植えると、『自然』とずっと昔からあったように見えるんです」 。それが、住谷さんの数ある技術のひとつ。 そう言われて辺りを見回すと、見たことがないほど背の高いドウダンツツジや、おもしろい株立ちのヤマボウシなど、住谷さんが全国各地から買い付けた個性的な木が並んでいます。

自然条件によって幹の片側に枝が集中し、反対側には少ない状態となった木を、建物の日陰に合わせて植える。そうするとずっと昔からあったように自然に見えるという。

店内に取り込まれた「野間の森」の恵み

レストランの店内に入ると、MIGIWAのオーナーでもある弘法さんの妻・凉子(りょうこ)さんが活けた野の花や、ドライフラワーがあります。これもすべて、MIGIWAの庭で摘んできたものだそう。ふだんはなんとなくしか見ていなかった草花たちが、新しい顔を見せてくれます。

MIGIWAの庭で摘んできた草花がドライフラワーとなり、店内に飾り付けられている。

野菜が美しく盛りつけされたサラダ

30種類ものの穀物や野菜が美しく盛りつけられた「ミギワサラダ」にも、夏ということで、庭で摘んできたナスタチュームの花が添えられていました。ただの飾りではなく、食べられる「エディブルフラワー」です。からし菜に似たツンとしたシャープな辛みが、他の野菜にはない味わいでした。じつは、MIGIWAの庭には「ポタジェ」という菜園があり、そこで収穫された野菜もレストランの料理に使われています。ポタジェとは聞きなれない言葉ですが、庭の景観とも馴染むように設計された菜園のこと。モダンな石垣が美しいMIGIWAのポタジェは、杉景の現社長である息子の晃也(てるや)さんが設計されたそうです。

30種類ものの穀物や野菜が美しく盛りつけられた「MIGIWAサラダ」
庭の景観と馴染むように設計された菜園「ポタジェ」。京都・木津川の栗石で積んだ石垣も美しい。

「五感で感じる」庭

食後には、窓から再び庭を眺めました。

「ここから色んな形の幹が見えますね。それらに遮られて、風が屈折して入るんです。だから夏はいっそう涼しい。秋は紅葉、冬はほとんどの雑木が落葉して、夏のあいだは葉っぱに遮られている山の稜線がぐるぐるぐるーっと見えるんです。それが麓に並ぶ民家とあいまって見事な風景です」。

風を感じ、鳥の囀りを聞く。 まさに、住谷さんが言う「五感で感じる」庭がここにありました。

木に遮られて風が屈折する。それが涼しさをもたらす。自然なように見えて、細部にわたって緻密な計算がされた庭だ。
自ら手がけた庭を散策される弘法さんと凉子さん

MIGIWAと東郷の意外な深い関係

じつは、MIGIWAの庭には東郷に深く関係する意外なものがあります。それは、入り口付近にある「野間氏発祥の地」を示す石碑です。野間氏の先祖は野間城を築いた野間頼家といわれ、その子孫には昭和天皇の祖母に当たる野間幾子もいるそうです。「これを目的に来られる方もいるらっしゃるんですよ」と、住谷さん。 東郷の風景や歴史とも調和するこの森は、なんだか新しい「鎮守の森」のように見えてきました。

MIGIWAにある野間氏の石碑。野間家は現在の天皇との血縁関係でもある名家。
店舗情報

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