養蜂(ビーキーピング)の仕事(生業)は、ミツバチについての知識を得るだけではできません。気候や周囲の植物の変化など、日ごとに移ろう環境に対応するための総合的な知識が必要であり、能勢町内で養蜂をするのであれば、当然、能勢の風土や地理感覚も知らなければなりません。 そこで今回は「未来のビーキーパー」になるための入門編として、2日間の座学講座を開講しました。 講座で養蜂についての基礎知識を学んだり、一筋縄ではいかない現実を知ったうえで、それでもなお本気でビーキーパーを目指したい人は、次のステップとして、講師である養蜂家の和田隆さんの研修生として手伝いながら仕事を覚えていくという流れにしました。
講師の和田隆さんは「小規模地域内養蜂」を実践している養蜂家です。 聞き慣れない言葉ですが、これは能勢の里山に自生する多様な蜜源植物を目指して、季節ごとに巣箱を移動させる養蜂のことです。たとえば、春はヤマザクラが咲く山辺へ、盛夏はカラスザンショウの群生地へ、というように、巣箱を軽トラに載せてこまめに移動させ、四季折々の蜜を集めています。 能勢の里山の風土を知り、その恩恵をフル活用することで、小さな養蜂を成り立たせる。それが和田さんの養蜂の特徴です。
貴重な映像、現物の道具、蜂蜜のテイスティング 五感で学習
まずは、自己紹介。「とにかくミツバチについて知ってみたい」という方から、すでに養蜂を始めたという方までおられ、受講生の動機は様々でした。
ーーすでにセイヨウミツバチを飼っている方や、趣味としてニホンミツバチを飼った経験からさらに詳しくハチについて学びたくなった方、野菜のマルシェでもらった今回の講座のチラシがクシャクシャになって出てきて、ふと参加したくなった主婦の方、コロナ禍をきっかけに生活圏である北摂で何かしたいと思って参加したものの、なぜ自分がここにいるのかわからないという映像関係クリエイターの方、などなど。
そこでまずは、様々なバックボーンを持った受講生のみんなをミツバチの世界へ案内するための講座からスタート。
それから、「ミツバチについて知ること」と「養蜂家として知っておくこと」を丸1日かけて学習。
単にミツバチの生態について学ぶのではなく、「家畜としてのミツバチ」というものの難しさも伺い知れました。
ミツバチの世界と、人間の社会
また、養蜂をするには、ミツバチや自然の法則だけではなく、人間社会の「法」についての知識も必須です。近年は、家庭で簡単に養蜂が始められることもあり、ミツバチを飼う人たちのあいだで様々なトラブルが起こっており、特に新規で始める場合は、地域の養蜂家への配慮が大事なのです。
養蜂をするうえで守らなければならない法律や条例があります。また、和田さんのような養蜂をするとしたら、こまめな書類提出やアメリカ腐蛆病(地域的に広がる可能性のある深刻な伝染病)の検査が必要となるため、資料も使いながら入念に確認しました。
特に、腐蛆病などの伝染病や、ダニなどの寄生虫は、ニホンミツバチ・セイヨウミツバチに限らず、自分が飼っているミツバチから他の養蜂家の蜂群に感染・寄生を広げてしまう危険性があります。
養蜂を「生業」として考えてもらいたいからこそ、こういった内容はしっかりと理解してもらいたいという思いがありました。
和田さんの仕事を観る
2日目は「ビーキーパー」として、和田さんがいかに日々を過ごしているか、「生業」としてよりリアルな部分に踏み込んだ講座内容となりました。
まずはビーキーパーとしての1年間の仕事の流れを学びました。「副業」として養蜂をする場合は、「今の仕事と両立させることができるか」、など、養蜂を始める決断をする判断材料になると考えたからです。
座学で学んだあとは、和田さんの作業場へ向かい、現地現物を見学。作業場では蜂群の観察と、ミツバチに寄生するダニ対策の実演をしました。
研修生の話を聞く
そして、午後からは、和田さんのもとで研修をしている吹上あおいさんのお話。
働きバチが死んだ女王バチに集まり、いつまでも離れない様子の記録などを紹介してもらいました。
ミツバチへの愛情が伝わる吹上さんの写真や映像、体験談に、場がほっこりとした雰囲気になったところで、座談会となりました。
「未来のビーキーパー」候補生
実際にかかる費用や養蜂を始めるうえでの心配事などをざっくばらんに話し合い、和田さんが答えていきます。
「この機材って買わないとダメなんですか?」
「越冬用の砂糖ってどれくらい買わないといけないんですか?」
「あのう、ぶっちゃけ、収入っておいくらなんですか?」
「こういう団体って入る必要あるんですか?」
など、今のうちに聞いておこう、という感じで畳みかけるように、和田さんに質問が飛んでいきます。
そんななか、「和田さんのところで一緒にハチを飼わない?」という会話が受講生同士で生まれました。
10万円以上の初期費用がかかるだけでなく、蜂群の全滅など、様々なリスクを伴う養蜂。一緒に始めるには、グループ内でお互いを信頼する必要があります。そんな関係が早くも受講生のあいだで生まれたのは意外でした。
最終的に今回の講座で、和田さんの「研修生」として養蜂術を学ぶ方、自身で養蜂にチャレンジされる方が数名手を挙げられました。ーーじつは、「実際に養蜂をやりたいという人は出ないんじゃないかな」と言っていた和田さん。今回の結果に、嬉しさと驚きがあるのではないでしょうか。
和田さんのもとで研修生として、5人が共同で、1人は単独で巣箱を管理しながら養蜂術を学ぶことになり、早くもその準備が始まっています。このなかにはハチのことをまったく知らなかった主婦の方もいます。この2日間で思いが大きく変わったようです。
それぞれのやり方で養蜂に関わる
今回得た知識を踏まえて引き続きセイヨウミツバチを飼う方、ニホンミツバチに挑戦しようと巣箱を購入予定の方もおり、「業」か「趣味」か、ニホンかセイヨウか、能勢町内外にかかわらず、受講生の多くがミツバチへの関心を深めてもらえたように思います。
また、この講座をきっかけに即養蜂を始めなくとも、「耕作放棄地に蜜源植物のヘアリーベッチをまいたり、栗園の下草として蜜源植物を育ててみたい」などのアイデアも生まれ、新しいことが起こる予感がしました。
座学の短期講座という性質上、基礎教養程度の講座になってしまうのではないかと不安だった今回の講座でしたが、予想以上に実りのあるものとなりました。
これをきっかけに、能勢町で「未来のビーキーパー」が育つことを願っております。
自己紹介 | ・里山技塾挨拶、和田さん自己紹介・受講者の自己紹介・志望動機などの共有 |
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能勢の自然環境 | 1.能勢の生物多様性と自然環境、2.生物多様性とミツバチの関係性 |
ミツバチの生態と天敵 | 1.セイヨウミツバチについて、2.ニホンミツバチについて、3.ミツバチの天敵 |
ビーキーピングの仕事 | 1.大まかな年間スケジュール、2.3月の養蜂開始と種蜂について、3.道具の説明、4.人口分封と全滅のリスク |
採蜜の仕事 | 1.巣箱の移動(飼育届や転飼届など)、2.出荷まで、3.巣箱管理 |
質疑応答及び座談会 | 1.現在の研修生あおいさんによるお話、2.質疑応答など |
※受講者に問いかけながら、受講者の疑問に応じて授業を進めます。
和田さんのホームページ
※受講希望者はHP内のビーキーパーの仕事を読んで質問を考えておくこと
1994年、映像作家の仕事の傍ら、陶芸を始めるため能勢町に工房「風気庵」を構える。2009年、兵庫県に住む知り合いの養蜂家の現場を訪れ、春先から越冬までのミツバチたちの様子をつぶさに観察。そして、翌年から蜜源植物の多い能勢でビーキーピング(養蜂)をスタートさせる。
講座概要 | ミツバチという繊細な生き物を扱う養蜂。これから養蜂を始めようという方向けに、予備知識を学べる2日間の集中講座を開催! |
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定員 | 15名 |
日程 | 2022年2月26日〜2月27日(終了しました)
※2日間連続講座 |
受講料 | 2日間 8,000 円 ※昼食は持参してください。希望者は弁当を予約することも可能です。その場合は申し込みの備考欄にご記入ください。 |
会場 | 1日目 さとおか防災コミュニティセンター(豊能郡能勢町地黄173-2) 2日目 能勢町役場駐車場(その後、風気庵作業場に移動) |
運営 | 能勢なつかしさ推進協議会 |
問い合わせ | 下記フォームに必要事項をご記入の上、送信ください。 |